【建築プロジェクトは”運営視点”が大事】

Dirk WoutersによるPixabayからの画像

お客さんと提供者さん
発注者さんと受注者さん

世の中、この関係性でビジネスが成り立っています。

つまり、”お客さん・受注者さんが欲するものを、提供者さん・受注者さんがお渡しする”ということで、『提供者さん・受注者さんは顧客ニーズに応えている』ということになります。

”アーティストさんやクリエイターさんが自らの思い、趣味嗜好を作品として公表し、それをお客さんが欲しがって手に入れる”という形もありますが、これもある意味『顧客ニーズを捉えた(応えた)』と言えますね。

いずれにしても、お客さん・発注者さんを満足させるには、「何を望んでいるか?」を的確に捉えている必要がありそうです。

最低でも、「何を不満と感じるか?」には注意を払い、その状況にならないように立ち振る舞う必要が、提供者さん・受注者さんにはありそうです。

さて、そんな中で以前、このような場面がありました。

ある建築プロジェクトにコストアドバイザーとして出席しました。
設計フェーズ佳境なのですが、目標コストをややオーバーしており、減額変更が必要でした。

その席で設備設計の担当者さんから、非常用発電機の仕様の見直し提案がありました。
「AからBに変更します。その変更を行えば、一千万円以上の減額効果が認められます。」と。
その建物は、オフィス・店舗・ホテル等の複合施設だったのですが、AからBへ変更することにより、
「性能としては65%程度になりますが、元々の仕様レベルが高いので、非常時としては十分な機能を果たせます。一般停電時でも震度6程度の地震時でも内容は概ね同じです。」との説明でした。

ただ、設備設計者さんから提示された資料の備考欄にはいくつか項目がある中でこんな記載がありました。

「ホテル客室は空調と給湯は中止。換気運転のみ可。」

気になって尋ねてみました。

『あの~、ちなみに一般停電ってどういう状況ですか?』
『それと、震度6程度の場合で停電想定期間は一週間程度ということですが、一般停電はどのくらいの期間・時間を想定していますか?』
『恐らく、長くても一週間以内ですよね?それ以上は震度6程度の被災時と同じなので。あり得るのは、2~3日といった数日間ですよね?』
『その一般停電は、例えば周辺地域を含む大規模停電とかであれば、広く世の中に知られるところですが、このビルのみが何らかのトラブルで停電になった場合、単純にこのビルだけの問題になる訳ですよね?』
『その時でも、多少の使いづらさはあるかも知れませんが、非常用発電機のおかげでオフィス・店舗・ホテル含めてこのビル自体は通常に近い形で営業できる訳ですよね?』
『そのような状況で、”ホテル客室は空調と給湯は中止。換気運転のみ可。”とのことですが、これは大丈夫ですか?』
『例えば、大地震が起きて周りも多大な被害を受けているなら、理解されると思うんです。「エアコン効かないよね。お湯出ないよね」って。しかし、宿泊者さんが認識しないほど、ほぼ通常に近い形で営業されているのに、客室の空調と給湯が使えない訳ですよね?』
『これは、宿泊者さんとホテルさんであったり、ホテルさんと発注者さん(ビルオーナー)であったり、いろいろトラブルを生む可能性があると思うのですが、如何でしょうか?』
『発注者さんの方で、この点についてホテルさんに確認・了承は取れているのでしょうか、あるいは、この条件は提示されてるんでしょうか?』
『もしかしたら、この状況に陥る可能性は極めて低いのかも知れませんが・・・。』

発注者さんもこの設備設計者さんからの提案自体が初見だったとのことで、減額は望ましいものの、ホテル客室のこの状況については問題がありそうなので、関係各所に確認するとのことでした。

これって実は、結構”あるある”なんですよね。

設計が佳境に迫り、且つ、コストがオーバーしていると、設計者さんはもちろん発注者さんもイニシャルコストを下げることに目が行きがちで、それに伴う運営上の懸念点が見過ごされてしまう可能性があります。

それでもやはり問題は問題である訳で、どこかで顕在化してくる可能性は高いです。
それが明らかになるタイミングが遅ければ遅いほど、コストはもちろん工期・品質に関してもプロジェクトが何らかのダメージを受けます。

しかし、『この建物(施設)は誰が何のためにどのように使うのか(使うのがベストか)?』に思いを馳せることができれば、意外と解決したり、トラブルの芽を摘むことができるものです。

最近、”お客様目線が大事”ということを感じたシーンがあり、このエピソードを思い出しました。

建築プロジェクトは”運営視点”が大事だと思うよ、というお話しでした。

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