【「クライアントに対して、"寄り添うこと"と"忖度すること"は違うよね」という話】

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僕は”プロジェクトマネジャー”で、クライアントのサポート役が主たる業務です。
その仕事を遂行するにあたって、クライアントと僕たちの契約行為も当然ある訳で、この内容に対する協議・共有はしっかり行う必要があります。

僕たちの業務で『少し難しいな』と思うところは、なかなか目に見える成果物を納めづらい、というところです。

例えば、設計士であれば、実施設計図といった図面を納めることができます。
施工会社であれば、まさに建物そのものや施設・設備といった実物を納めることができます。

しかし、僕たちには一般的に決まり切った成果物というものは無いんですね。
そんな中で、業務報告書というものが代表的な成果物になります。
もちろん、プロジェクトを進めていく中で、その状況に応じて様々な技術的な資料を作成して提出します。
それも含めて、最後に業務報告書の形で一式納めるのがひとつの形式になっています。

ただ、設計図や建物はいわゆる"資産的な価値"を含んでいますが、残念ながら"業務報告書"には、その価値はやや薄いというのが現実でしょうね。

その分という訳ではありませんが、僕たちのミッションというのは、"プロジェクトをクライアントの望むように、助言し、推進し、完遂すること"で、まさに、プロジェクトの成否が僕たちの成果ということになる訳です。

ただし、この"成否"についての評価も、状況により大きく異なると思います。

プロジェクトは往々にして、初期の計画と変わることがよくあります。
従って、必ずしも当初の計画通りにプロジェクトが完了することが正しい訳ではありません。
大切なのは、その変化も含めてクライアントの目的を達成する、クライアントが満足する結果を得ることです。
僕たちの仕事は、その過程に寄り添い、クライアントの意思決定を支え、クライアントの納得と満足いく結果を提供することだと考えます。

そのために必要なのは、決して”悪い意味での忖度”では無いんですね。

忖度とは、「他人の心を推し量ること」「推し量って相手に配慮すること」で、本来、ポジティブな意味の言葉です。

しかし現在は、「上役などの意向を推し量る」、つまり「上の者に気に入られようとしてへつらい、機嫌をとる」という意味で解釈されることが多く、ネガティブなイメージがあるのでは無いでしょうか?

なので、あえて”悪い意味での忖度”という言葉を使わせてもらいました。

この場合の悪い意味での忖度とは、『クライアントに遠慮して、しっかり伝えるべきことを伝えない』ということになります。

例えば、プロジェクトのクライアント側の担当者の勇み足で、既に彼の上役に報告していることと違う状況になりそうになった場合、いち早く手を打てばわずかなロスでリカバリーが可能となるところを、上役への報告をためらい、あり得ない希望的観測で状況を放置する担当者に対して、意見することなく状況を悪化させてしまう、ということ。

これは、担当者含めてクライアントは誰も得しません。
担当者をかばったつもりで、アクションを起こさずに「何とかなるだろう。」「〇〇さんがそう判断しているなら。」「担当者がそう言っている以上、私に権限は無いし、責任は無い。」とばかりに、見て見ぬふりをすれば、その後どうなるかは明白です。

多くの場合、結局、問題が更に肥大化した形で現れ、もっと大きな、下手をすれば取り返しのつかないトラブルに発展することもあります。
そして、決して自分も無関係ではいられないでしょう。
結局、自分も苦しむことになるのです。

この場合にやるべきことは、しっかりとした状況分析を行った上で、事態を正確に把握し、改善のための一手を素早く打つことです。
そして、極力、クライアント側の担当者の失点にならないようにストーリーを構築し、上役も含めて状況改善の一点に向けて力を結集するようにチームの意識付けを行うことだと考えます。

周りの人達にしっかり配慮しながら、時には言いにくいことも言う。
これは、先日書かせて頂いた【課題解決への近道】と通じるものがあります。

もちろん、プロジェクトマネジャーが必ずしも正解を知っている、正解を出せる訳ではありません。
僕の場合は特にそうです。

しかし、常にプロジェクトの成功のために、100%の全力で向き合っています。
そうであるからこそ、「こうしたら良いのでは?」と意見が言える訳であり、それをきっかけに議論が始まり、みんなで知恵を出し合い、課題の解決を図れれば良いと考えています。

そうやって、プロジェクトの軌道修正・推進を行うことが、僕たち”プロジェクトマネジャー”の役割だと思っています。

悪い意味での忖度は、相手を助けることもできませんし、自分自身もピンチに追いやることとなってしまいます。
結果、誰も幸せにはなりません。

これは、クライアントとプロジェクトマネジャーという関係だけで起こることでは無く、様々なビジネスシーンで共通することでは無いでしょうか?

だから、僕は常に、悪い意味での忖度はしないように心掛けています。

これからも、100%全力でクライアントに寄り添い、プロジェクトに向き合っていきたいと思っています。
「クライアントに対して、"寄り添うこと"のと"忖度すること"は違うよね」というお話しでした。

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諏訪寛  (著) 形式: Kindle版