【プロジェクトにおける設計者とコストマネジメント(その2)】

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✔『何のための建物か?』『誰のための建物か?』

建物を建てるお金は、当然のことながら設計者のものではありません。

一方、デザインを売りにしている設計者は、当然デザインも大切にしたいと考えると思います。
それは、少なからず理解できます。

しかし、それが設計者のエゴになってしまってはいけません。
“その建物は何のための建物か?”
“その建物は誰のための建物か?”
ここは外すことのできない視点です。
当然、そこにはコストも大きく関わってきます。
ただ”かっこよければいい”のではなく、“納得できる金額”であることが必要になります。

デザイン(品質)とコストを両立させる。
大切なのはそのバランスであり、設計者とコストマネジャーの協働力が発揮されるところだと思います。

✔調達可能価格という考え方

施工者の算出するコストが“実際につくるのに必要な金額=工事価格”であるのに対し、実際に建てる立場にない設計者の算出するコストは“発注予定価格”ということになります。

ここで注意しなければならないのが、『如何にフラットに事実(現状)を捉えて予定価格を算定できるか?』ということです。
つまり、如何に感情を排除して、予算を組めるか?ということです。

どういうことか?

前述の通り、設計者として「自分のデザインを重視したい、守りたい」という心理は少なからず沸き起こります。
それは、悪いことではありませんが、その心境を持って設計を進めていく中で、自分のデザインが「どうも予算内に収まるかが怪しい」となれば、その胸中は複雑になるでしょう。
加えて、発注者要望が追加で2つ3つと出てきた時にはさらに不安は増すと思います。

このような背景がありながらも、どちらかと言えば“発注者に寄り添う”という大義名分のもとに設計が進められます。
その結果、予定価格の算定に関して、やや自分本位・希望的観測というような設計者にとって都合の良い解釈になることが少なくありません。

これは、正しく冷静に現状を見ていることにならず、先々、施工者選定(工事価格交渉や入札)の段階でトラブルとなる原因になります。

とは言え、多くの設計者が“可能な限りフラットな視点”でコストに向き合っているのもまた事実です。
何をもってフラットとするかは難しいところがありますが、その目安のひとつと考えられるのが「積算基準」であり、“積算資料”や“建築施工単価”のような「刊行物」であると思います。

発注者に説明する材料としては適していると思いますが、残念ながら、施工者と合意できる金額、入札で不調にならない金額であるかというとやや微妙になります。

これは、基準や刊行物がダメということでは無くて、市場価格の変化は刊行物の改訂よりも当然早いために起こる現象です。
特に、これから価格が緩やかに上昇していく局面であることが予測されることを考えれば、基準や刊行物だけを判断軸で考えるのは危険だと言えます。
情報収集をまめに行い、市場価格に対するアンテナの感度を高く保つことが肝要です。

つまり、概算算出で必要なのは、その案件で施工者と合意できる金額、『調達可能価格は?』という意識ということになると思います。

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