【コストマネジメントにおけるBIMの活用と展開(その1)】

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✔BIMの活用と展開

昨今、“建設DX”と言われるように、デジタルシフトをはじめとして、上流から下流までの建設生産活動の一連の生産性向上が求められています。
生産性向上のために、工業化・省人化工法の開発、ロボットの活用・普及など施工現場・生産現場での大きな改革と並んで注目されているのがBIMの活用による生産プロセスの改革です。

意匠・構造・設備・電気の情報を集約し、さらに材料、部材の仕様・性能など様々な属性情報を付加したひとつの建物モデルを設計・施工・維持管理に至るまで一貫したデータで可視化・管理するBIMソリューションは建築生産の仕組み・プロセスを大きく変える可能性を持っていると言えます。

また、BIM活用の大きなメリットとして、コストマネジメントへの展開に期待が集まっています。
ただ、従来のコストマネジメント手法に対し、単にBIMソフト・機能を取り入れるだけでは十分な効果得られません。
各種のデータ連携環境や各分野間の標準化、新たな役割やワークフローの整備など、必要な条件が多岐に渡るという難しい課題を抱えているのが現状です。

一方で、従来の積算業務を担っている担当者からは「BIMの普及と発展により積算業務は必要なくなるのでは無いか?」という懸念の声が少なからずあるようです。
しかし、『一概にそうは言えないのでは無いか?』と考えます。

現状では、設計業務でもまだ十分な活用に至っているとは言えず、BIM自体の普及もまだまだの状況です。
その設計を基に算出されることになるコストとの効果的な連携に関してはさらに遅れている状況で、設計に対するBIMの更なる普及・浸透が必要なのと同時にコスト領域での有効な活用も深く検討される必要があります。
このような現状からから、まだまだBIMの普及・拡大は必要で、当面は従来の積算業務がすぐに必要無くなるということにはならないことは明らかかと思います。

それよりも、むしろBIMが普及しようとしているこのタイミングこそ、コストマネジメントの重要性が高まっていると言えます。
本音を言えば、現在ももっと基本計画段階・基本設計段階といったプロジェクトの川上からコスト担当者(コストマネジャー)が参画して、プロジェクトを一緒に創り上げていくということが必要であると思います。

BIMの普及により、使い方によっては今までよりも格段に精度高く概算コストを算出することが可能になると考えます。
実は、コストマネジメントとBIMの相性はよく、このBIMの普及・拡大期はもちろん、今後はプロジェクトの成功に数量積算含めたコスト技術者(コストマネジャー)の活躍が大いに期待されると考えます。

✔設計におけるBIMを活用の狙い

BIMは単なる新しい設計ツールとしてではなく、意匠・構造・環境設備・コストそれぞれの分野において活用と連携を効果的に深めることにより、建築生産のプロセスを変革するシステムと考えられます。

当初、多くは設計プロセスにおける業務効率や設計品質の向上、確実な合意形成や早期の意思決定などへの効果が注目されていましたが、現在では発注者・設計者・施工者が建物に関わる情報を共有し、発注者の利益を最大化することを目的として、事業計画や建物運営、維持管理といった建物のライフサイクルにBIMの活用領域が拡がることが期待されています。

その中でも、BIM活用のポイントは、やはりまず設計段階にあります。

設計におけるBIM活用を推進する狙い・メリットは3つあると考えます。

ひとつは、当初の期待の通り、発注者の速やかな意思決定への貢献です。
BIMデータとヴィジュアライゼーションソフトの連携により非常にクオリティの高いパースや動画の作成が可能になります。
これにより、設計者と発注者とのイメージ共有が容易になり、早期の意思決定につながる効果が期待できます。
また、このことは、施工者含めた関係者間での意思疎通にも有効になります。
VRは更に効果的です。
一般的に活用されるには、更なるテクノロジーの進化やツールの普及が必要かと思われますが、VRでは実物同様のスケールで体感できるため、より精度高く完成形を確認することが可能になり、発注者との確度の高い意思疎通・イメージの共有が図れると思います。

ふたつには、設計段階における意匠・構造・機械設備・電気設備間の各領域が相互に効率よく連携できる点が挙げられます。
図面上の不整合部分の検証をスピーディーに行ったり、計画変更や面積変動の情報を設備設計へダイレクトに反映させることが可能なことから、設計変更へのタイムリーな対応と設備設計者の作業負担の軽減にもつながります。
また、予め変更の反映や不整合を解消することが可能なことから、施工段階での手戻りを無くすことにつながり、施工段階での業務効率化にも有効です。

みっつには、例えば、構造設計から鉄骨製作に至るデータの連携といった仕組みを構築図り、生産性向上を図ろうとするところです。

近年、建築工事の大規模化や人手不足といった理由から鉄骨造建築物が急増しています。
そのことより、鉄骨積算業務は負荷が大きく、積算担当者の業務がひっ迫するという状況も招いています。
しかし、一般的に鉄骨工事のコストは建物の全体コストに対して占める割合が高いことから、鉄骨積算の可能な限りの精度向上が求められます。
このことから、特に鉄骨積算業務の効率化は喫緊の課題になっていると言えます。

このような背景から、設計者が作成する鉄骨造の3D構造データを鉄骨積算や製作(発注)に必要なデータに変換するツールの実装・運用が期待されています。

このことより、積算・発注段階においては、製作する鉄骨の仕様や数量を容易に把握でき、鉄骨ファブとのデータ連携などで、積算数量整合などの業務が大幅に効率化されます。
さらに、施工段階においては現場での鉄骨工事の施工図作成業務を省人化できます。

鉄骨に関する情報を一元管理することで、基本計画・基本設計段階などプロジェクト早期での構造プラン検討や施工方法検討にも効果を発揮し、コスト戦略の立案や鉄骨調達に活用することで、コスト競争力やコストの最適化を高めることが可能になると考えます。

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