【プロジェクトにおける設計者とコストマネジメント(その1)】

Steve BuissinneによるPixabayからの画像

✔概算算出は難しい

いきなりですが、設計者がまず認めて意識しなければならないのは、プロジェクトにおいて最も発注者が重視するのは『コスト』と『スケジュール』だということです。
発注者が建物を建てようとするときに『デザイン』、『品質』や『使い勝手』が重要と考えるのは当然で、もはやそこは同業他社との大きな差別化のポイントにはなりづらくなってきています。

例えば、設計プロポーザルの場合にも、僕たちのようなプロジェクトマネジャーが発注者支援に入っている場合、発注要項において、品質・使い勝手などの要求水準を規定している場合が多い。
そうなれば、その規定に従う、あるいはその規定を超えた機能・性能を提案してくることが求められることになります。
しかし、要求水準よりハイスペックな提案が必ずしも必要であり、評価されるかわからないし、それがコストとトレードオフ(コスト増)になっていれば、逆にマイナス評価になりかねない。

発注者が企業であり、その建物で事業収益をあげようよしているならば、最重要はコスト(建設に掛かるイニシャルコストと運営開始後のランニングコスト)になることは理解できると思います。

そして、プロジェクトを進めていくにあたり、発注者が特に関心を持って知りたくなるのが、「この建物を造るのにいくらかかるのか?」という概算コストです。
このコストは、事業計画や年度予算に与える影響が大きいため、発注者としてはできる限り早い時期に知りたいと考えるのは当然のことです。
しかも、その精度は高ければ高いほど良いのは言うまでもありません。

このように、いま設計者に求められているのは、建物を『デザイン』することだけではなく、『コスト』や『スケジュール』のマネジメントです。
しかも、「可能な限り精度高く、なるべく早くコストをつかむこと」です。

しかし、プロジェクトの初期段階、基本計画段階での概算金額の算出は、実施の積算より難しいと考えます。

実務的な話になりますが、概算でコストを算出する状況では、当然のことながら詳細な図面は揃っていません。
図面が無い時点では過去のデータから用途や規模・構造を基に類似事例を参考に、単線でも図面があれば、もう少し詳細に概算工事費を算出していくことになります。

例えば、コンペやプロポーザルの場合、「提案するデザインが予算内に収まりそうか?」を検証することになります。
また、基本設計着手後、「進めている設計内容が予算内に実現できそうか?」「発注者の追加要望は?」などを把握・検証し、コストマネジメントしていくことになります。

✔設計者とプロジェクトコストマネジャーの協働

前述の通り、プロジェクトの初期段階を含めて一貫したコストマネジメントは必須になります。
一般的には、設計者がそのプロジェクトの責任者として、コストを含めた取りまとめ役を担っています。
しかし、多くの設計者がそもそも設計作業だけで手一杯なことに加え、簡単に言えば、デザインとコストはトレードオフになるケースが多く、設計者自身がなかなかコストに重きを置いた判断を下すのが難しいのが実情でした。

そのため、設計着手と同時にコスト担当者を設計チームに加え、専門家としてプロジェクトチームの一員として一緒に業務を行っていくという体制を取ることが有効です。

設計の初期段階からプロジェクトに参画することで、発注者の要望や設計者の考えをより正確に把握・共有することができ、詳細な図面が無い状況でも発注者の要望や設計者の思いを反映した概算を算出することは可能であると考えます。

もちろん、概算算出をコスト担当者のみに任せるのはNGです。
実施設計レベルの図面が無い限り、単純に精度の粗い図面や現状資料のみから数量を算出する手法では、まだ見える化できていない必要なものが計上されなくなってしまう恐れがあります。
きちんと、設計者との意識共有を図り、概算算出を行うことが肝要です。

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