【建築設計者に厳しい環境になってきていませんか?】

建築設計者に厳しい環境になってきていると感じます。

建築設計者とは、この場合、組織事務所に所属している方やアトリエ系事務所で仕事をしている方、いわゆる“設計行為を専業でされている方”ということになります。

これ以外の設計者は、ざっくり“施工会社(ゼネコン)の設計部などに所属されている方”という括りと考えます。

✔設計施工一括方式(デザインビルド方式)の課題と今後の展開

デザインビルド方式は、民間工事においてはこれまでと変わらず広く導入されており、様々なバリエーションの手法が活用されている状況が続いています。

一方、公共工事において、昨今では全国の地方自治体の様々な用途の施設建設・施設整備において、設計の難易度や施工の難易度もさることながら、庁内の技術者不足・ノウハウ不足を含めたより複合的な要素が検討された結果として、デザインビルド方式が採用されることが増えつつあるようです。

ただ、前述のようにデザインビルド方式でも様々なバリエーションが存在している中、公共工事業という公共性・透明性を求められる事業において、制度的に確立された仕組みが構築できているかと言えば、現時点でその状況とは言えないというのも事実かと思います。

具体的には、要求水準書の作成や評価選定の基準や手続き、設計施工契約約款の整備などが挙げられます。
そして最も悩ましいのは、”積算基準をどう扱うか?”、”予定価格をどのように設定するか?”ということだと考えます。

このことは、コストの確からしさ・妥当性についてはもちろんですが、予算の承認や工事請負契約手続きなど、プロジェクトのスケジュールに直結する要素を抱えており、仕組みを構築する上での大きな課題のひとつと言えます。

またさらに、”当初の設計施工契約時の要求水準に対して実施設計図をどのような位置づけとするのか?”、”設計変更のベースをどの図面とするのか?”など、細部も含めて整理・解決すべき課題は多岐に渡ります。

先行して取り組まれているプロジェクトでは、これらの課題について各自治体の中でそれぞれに様々な検討を経て、判断・解決が進められてきているのが現状です。
ただ、この個別の検討・判断やルール決め、内部承認(議会等の承認)に係る労力はかなりなものですす。

このような先行した取り組み事例での検討経緯や検討結果を集約・検証し、ルール化や標準化を推進することが大切です。
制度を確立し、信頼性や効率性が高いものとして実行していくことが必要です。

リスクヘッジのための要求水準・性能規定などは、実は設計施工者の提案の自由度とコスト確約のための条件設定の精度は相反する要素になります。
そのジレンマを解決しながら、メリットを最大化するようにしていくことが重要です。

最大の利点であり、同時に大きな課題でもある「良い加減(いい加減)」な状態での発注ということが、実は“性能発注型のデザインビルド方式の本質”であります。
これを踏まえた上で、公共事業における公正性と透明性を満たしつつ、”いかに制度化するか?”ということが、デザインビルド方式の更なる普及のカギになると考えます。

ただ、まだ課題は多い公共事業でのデザインビルド方式の採用ですが、今後の事例の積み重ねによる収斂の結果、確実にスタンダードなものになっていくと考えます。

✔“設計施工分離”→“設計施工一括”の意味

民間工事などでは、従来から一般的に採用されてきた“設計施工一括方式(デザインビルド方式)”が、公共工事にも浸透してきました。

ここからわかることは、『設計者のポジションが変わるのではないか?』ということです。

設計施工一括での発注が増えていくということは、プロジェクトに対して手を挙げる時点で施工とセットということです。
つまり、設計事務所であれば、どこか施工会社と組んでエントリーしないといけないということになります。

であれば、極論、施工会社内部に設計部署を抱えている会社(いわゆるゼネコン)であれば、単独でのエントリーが可能になる訳です。

もちろんプロジェクトによって、そもそも求められる参加資格要件が設定されるでしょうし、現段階で建設業界を見渡してみても、大規模かつ特殊性が求められるような建物の設計をしっかり行える施工会社は潤沢とは言えないかと思います。

とは言え、一定規模の施工会社であれば、いわゆる設計行為は十分できるわけで、他の設計事務所と連携が必須であるかと言えばそうでもない事実もあると思います。

世の中は確実に『デザインビルド方式』が主流となる方に向かっています。

この流れは『建築設計者に厳しい環境になっていくんだろうな?』と個人的にはそう感じています。

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