【建築プロジェクトにおける概算推計の重要性が高まっています（その１）】

✔『建築コスト概算の精度向上』が大きな課題

建築積算業務は、設計図書が一定レベルで確定した時点で行われ、その時点での設計情報をもとに建築コストを精度良く算出するものです。
建築コストは発生した時点で確定するものであることから、施工者選定の局面において、建築コストに大きな影響を及ぼす建築積算は工事請負契約を締結する上で重要な業務として位置付けられます。
このように、建築積算はより的確性・厳密性が期待され、かつ、建築技術の多角化・高度化への対応が求められる状況となっています。

施工者選定時における積算は、詳細な設計情報に基づく精度の高いコスト推計であると言えますが、実は、建築プロジェクトの成功のポイントのひとつに、“設計が確定するまでの過程における建築コストの推計”、つまり、コストマネジメントは非常に重要な位置づけにあると言えます。

特に企画段階・基本計画段階では、建てようとする建築の規模や用途を検討する際などで、構造用途別の床面積㎡あたり建築工事費による工事費の推計値が重要な検討材料となっています。

設計が進むに従い、計画・構造・意匠・設備などが次第に具体化しますが、その進捗過程で検討され、決定される設計内容に対し、適宜的確にコストが推計されることが重要であることは言うまでもありません。

建築プロジェクトにおけるコストマネジメントは、実は“企画段階”からスタートしています。
この企画段階は、発注者のみで検討しているケースが多いです。
しかも、建築コストに関する検討は、どちらかと言えば、“建築に掛かるコストでは無く、建築プロジェクトにいくらまでなら予算を投入できるか？”という文脈で検討が進められることが多々あります。
つまり、何らかの課題を解消するために行う建築プロジェクトとそのための投入予算のギャップを抱えたまま、次の基本計画段階に移行します。
ここで、建築の専門家が登場することになる訳ですね。

先にプロジェクトが立ち上がり、建築の専門家を交えて検討を進め、ある程度骨格が見えたところで、建築コストを試算し、「あれ？こんなに？」となるケースもよくある話ですが。

また、建築コストの推計は、建築の新築・改修といった工事そのものだけでなく、建物自体の生涯を視野に入れたLCC（Life Cycle Cost）の視点でも重要です。
建築工事費は、竣工時・完了時に確定するものですが、LCCは建築が除却されるまで確定せず、推計の部分が付きまといます。
”LCCは新築に伴うコストの5～7倍要する”といった報告も見られる中で、省エネルギーなどに若干のコストを追加すればLCCが大きく低減できることなど、LCCを意識した設計、設備投資への意識が高まっています。
イニシャルコストとなる建築コストの推計は、LCCの分野にも大きく関わっていると言えます。

いずれにしても、できるだけ川上の段階で正確なコストをつかむ、プロジェクトの進捗に伴い変化する事情に合わせてタイムリーにコストをつかむことが求められることは異論が無いと思います。

このように、建築プロジェクトでは“基本計画程度の概略情報、あるいは未確定部分が残る設計情報が確定する前の段階で、その時点での情報を元に的確にコストを推計する”ことが求められていいます。
つまり、『建築コスト概算の精度向上』が大きな課題となっています。

✔概算は重要です。しかし、難しい・・・。

以前、【プロジェクトにおける設計者とコストマネジメント（その１）】で「概算算出は難しい」ということを書きました。

そうなんです。
現時点でこれは非常に難しい、至難の業となっています。

特に企画段階・基本計画段階では、過去の類似物件等の中から、実績や今後の市況、地域要因も考慮し、「目標はこれくらいだろう」という睨み、要は経験値を多分に含ませながら概算推計を行っているのが現状です。

このように、これまでプロジェクトの進捗過程のコスト推計が、一定の精度をもって効果的に行われる状況には至らなかったと言えまる訳ですが、近年、建築設計等におけるICTの導入が進み、設計の進捗状況に応じたコスト推計がある一定程度で可能となってきています。

しかし、現状では、建築コストに関わる状況がますます厳しくなり、設計の進捗過程に応じたスピード感ある、適切なコスト推計の要請もより強まっています。

その難しい課題に対して、日々試行錯誤しながら最適解を求めて設計者・コスト担当者の皆さんがそれぞれ汗を流してがんばっているというのが実情だと思います。

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諏訪寛　 (著) 形式: Kindle版