【建築プロジェクトにおける概算推計の重要性が高まっています(その2)】

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✔『建築コスト概算の精度向上』の3つのポイント

『建築コスト概算の精度向上』が様々な面で、その意義の重要性が認識され、役割が期待され、また実務的な可能性が拡大してきています。

その具体的なポイントが下記の3つであると考えます。

ポイントの一番目は、『企画段階からの精度の高い概算』です。

建築プロジェクトの中でも特に収益事業プロジェクトにおいては、できるだけ川上段階での建築コストの的確な推計が重要になります。
平面計画・規模・仕様など設計の進め方自体について大きな影響を及ぼす可能性があるため、コストに関わる情報を的確につかまえて、内容をできるだけ早く詰めることが必要となります。

建築コストが設計の早い段階で的確に把握出来ることの意義が大きいことは、以前から言われていたことではありますが、設計の進め方とコスト推計のための情報把握のアクションがなかなか機能的に連携できませんでした。

結果、属人的な経験値や相場に基づく床面積当たり工事費、いわゆる“坪単価”による推計に拠らざるを得ないというのが現状です。

しかし、昨今のICTの発達や各種の建築統計の充実は、こうした状況を徐々にではありますが、抜本的な改善に効果を発揮しつつあります。

設計の段階に応じた情報に対するコストの推計の可能性が開けてきており、さらにBIMに基づく実用的なコストマネジメントも視野に入ってきている状況です。

ただ、コストマネジメントにおけるBIMの本格的な有効活用にはまだまだいくつもハードルがあります。
しかし、確実に進化・発展の道を歩んでいると言えます。
(以下、参照)
【BIMと建築積算(その1)】
【BIMと建築積算(その2)】

ポイントの二番目は、『概略設計から精度高い数量算出、単価計上』です。

これは、上記の“企画段階からの精度高い概算”のためのICTやBIMの活用と大いに関係するのですが、概略設計であっても仮定断面等想定数値を図面資料に落とし込み、それをもとに数量算出を図るというものです。

この方法においては、特に部材・パーツモデルごとに数値を持つBIMの活用が期待されるところです。

基本的には建築全体の概算が重要になる訳ですが、それは個々の費目の概算の積み上げが必要になります。
個々の費目の概算の基となる設計情報の粗さを可能な限り解消するために、部材モデルと数値(数量)が紐づいていることは非常に有益です。

前述のように、まだまだ課題はありますが、既存の積算システム、積算手法との組み合わせなどで、各段階・各フェーズごとの概算算出の精度向上を図れるのではないか、と考えます。

ポイントの三番目は、『設備設計の同時進行、建築・設備整合による概算精度向上』です。

設備を含む工事費全体における設備工事費の割合は、建築設備の全般的な発展と普及、超高層建築、大規模建築、医療施設・ホテル・研究施設・生産工場等のような設備への依存度の大きい建築物の進化・発展により、飛躍的に大きくなってきています。

また、特にLCCへの関心が高まる中で、維持保全コストに占める設備工事費の比率は新築以上に大きく、設備工事のコスト推計の精度向上は大きく期待されています。

しかし、このような状況にも関わらず、建築積算ではこれまで建築設備を積極的に扱うことはあまり行われてきませんでした。

その原因として、企画段階・基本計画段階において、設計行為が建築のみに偏り、設備設計の目線・知見が十分に反映されていないことが挙げられます。

つまり、“建築と設備の整合”が図られていない状態で、最も大切な川上段階を通り過ぎてしまっているということですね。

実際、建築的な計画・意匠・構造の検討がある程度進まないと設備の効果的な検討にならないという現実はあります。

ただ、建築コスト全体像の把握にとって、設備工事のコスト精度の低さは大きな障害となります。

昨今では、設備の概算手法について、設備の専門家の多くの知見を積極的に活用して、設備設計情報の詳細が必ずしも詰められていない状況でも、できるだけ細目レベルでのコストを推計する手法の提案が表れてきています。

この動きをさらに後押しするものとして、同じくBIMの活用があります。
建築モデルに設備モデルを重ねることで、一定程度の意匠・構造・設備の概略の整合性の確認は可能になると考えます。

このことにより、計画段階で致命的な問題の発見や大きな視点での方向付けなど、プロジェクトの根幹に関わる情報と共有の課題が共有され、それに伴う概算により、全体コスト推計の精度向上に大きく貢献すると考えます。

前述の通り、建築もそうですが、設備概算を取り巻く現在の状況は、多様で厳しいものではあります。

しかし、設備概算の精度向上に対するニーズは大きく、また、プロジェクト全体の精度向上、プロジェクトの成功に不可欠なものとなっています。
設備工事における概算手法の更なる進化・発展も大いに期待されるところです。

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