【コストマネジメントにおけるBIMの活用と展開(その2)】

✔BIM活用・BIM積算の課題

BIM活用・BIM積算の実施にあたり、課題も見えてきました。

ひとつは、“BIMに対応した積算ツール・積算基準”です。
BIMソフトから算出される数量は実数量となるため、現状の積算基準で数量積算すると、数量差異が発生します。
今後、BIM活用の普及とともに、積算ソフトとのデータ連携の精度向上、もしくは積算基準の改訂が必要になるのでは無いか、と考えます。

もうひとつは、“BIM活用の環境整備”です。
BIMを広く普及させるには、設計者・施工者、あるいは発注者も、そのメリットをしっかり認識して、必須のツールとして確立する必要があります。
とりわけ、設計者がBIMで設計することを決めなければ始まりません。
設計者がBIMを使うメリットを強烈に意識する必要があります。
そのカギは“コストマネジメント”にあると考えます。

BIM及びデータ連携を効果的に発揮するには、その連携を活用したコストマネジメントを正しく理解し、リソースを最大限に活用しながら、いかに付加価値の高いアウトプットを算出できるか、というプロジェクトマネジメントの視点が重要になってきます。

特に、各ソフトウェア間の様々なデータ連携を効果的に利用し、仮にシステム上の不具合が生じた場合は早急に問題解決を行い、業務に支障が生じないように管理していく必要があります。
このように、安定的に業務を実施するためには、広く関連する専門会社との連携も重要になります。

例えば、BIM情報だけでは不足する内容を設計図書や仕様書より紐解き、内訳明細に転換していく多くの作業は、積算専門会社が力を発揮するところとなります。
BIMワークフローを効果的にコストマネジメントにつなげていくためには、業務の進め方や役割分担を柔軟に見直しながら、最適な連携体制を構築することが重要になってくる訳です。

部分的に鉄骨や構造におけるBIM活用の取り組みが先行していますが、いずれは仕上げにおけるBIM活用も本格的に導入されてくることになると思います。
となれば、同時にそれらの業務を担う人材が欠かせません。
BIMの普及と発展のための人材育成、それに伴う様々な環境整備が不可欠となります。
また、コストマネジメント人材も同様で、BIMに関する知識を持ちながら、積算業務・コストマネジメントを担える人材の確保は必須となってくるでしょう。
そのための積算業務・コストマネジメントの付加価値向上とそれを担う技術者育成に力を注ぐ時期にきていると考えます。

✔今後の展望

現在、BIM関連のソフトウェアは確実に進歩・向上しています。
建設DXが叫ばれている昨今、従来の生産方式を根本から見直していかざるを得ない状況だからこそ、デジタルシフトをテコに、如何にBIMの普及・促進を図っていくかを考える絶好のチャンスと考えます。

今後の設計情報と積算との連携には2つのポイントがあると思います。

ひとつは、設計から施工、維持管理に至るまでを念頭に、作成するBIMデータの目的・意味を決定することです。
これまで設計プロセスや成果品では、コンセプト・図面作成するにあたって手書きとCADを用いてきました。
手書きのデジタル化と言えるCADはあくまでも紙をベースとした考え方であり、そのデータを利活用することは非常に難しいのが現状です。
その点、BIMデータは様々な情報を入力することで目的に応じた利活用が可能になりますが、その情報量が膨大になるために、設計時の入力手間と作業効率のバランスに問題が生じる可能性があります。
どの程度のデータをどのように構築する必要があるかを利用目的に合わせて、“どのようなデータを作成するか?”を明確にしておく必要があります。

もうひとつは、BIMデータにコスト情報を持たせることです。
上記で示したBIMデータを都度設計者(あるいは積算担当者)が作りこむのでは無く、ある体系に基づき標準化するという考え方になります。
現在、BIMデータが積算に有効利用できるような情報を持つことはできていません。
そのため、BIMだけでコスト算定を行うことは不可能です。
例えば、何らかの分類体系が整備されて、効率的な積算連携が実現すれば、数量算出からコスト把握までの一気通貫で作業を行うことが可能になり、基本計画・基本設計段階での概算コストを確度高く算出することが可能になってくると思います。
しかし、これはあくまで個人の見解ですが、そこまでBIM積算が成熟するには、まだ相当な時間が掛かるのでは?と推察します。
であれば、まず目指すべきは、設計・積算(コスト)・施工・運用管理といった関連する技術者がそれぞれのフェーズ、それぞれの役割で使うことができるようにデータ変換可能な形とすること、それぞれの役割をリレーションできる仕組みと体制の構築を図り、実行していくことが肝要ではないかと考えます。

一方、前述のように「BIMの動きが加速すると、積算・見積関連の仕事が無くなる」といった懸念の声があると記しましたが、上記のような理由で、まだまだそのような状況はほど遠いと考えます。
むしろ数量積算やコストマネジメントの能力はより強く求められるようになるのでは?と思います。
現状でBIMを積算・見積業務で活用するには、仕様書などの文章でしか表現されていない情報に対しても如何に構造化・デジタル化を図り、データベースを構築するか、モノとコストの情報をどのように整理して、どのように紐づけていくかなど、複雑な課題が多岐に渡って存在します。
それらの課題に対応するためには、BIMから自動算出された数量の補正や妥当性を判定する業務、BIMにオブジェクト情報を入力する業務、ライフサイクルコストの最適化を図りマネジメントできる能力などが求められると思います。
今まで存在していなかった新しい業務や能力が必要とされるかも知れません。

設計ツールと考えられているBIMですが、実は“コスト情報を伝達するツール”としての役割と意味が大きくなるのでは?と考えています。

その視点見れば、コストマネジメントを担うものはBIMに関するスキルを高めておく必要があると言えます。
設計段階から施工段階、そして運営段階と一貫したコスト情報(項目・数量・単価)の橋渡しが見積・積算担当者の責務です。
設計者・施工者・積算担当者(コスト担当者)が効果的な連携ができるようなコストマネジメント手法の構築が求められます。

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