【マンション内覧会同行(その2)】
(前回の続き)
そして、実際に内覧・検査を始めると、大小様々な指摘事項が出てきます。
一般的なチェックの仕方は、不具合箇所を見つけたらその場所にマスキングテープを貼り、チェックシートに不具合項目を記入していくというものです。
同時に是正方法に関するコメントも書いたりしますが、原則として是正方法は、施工会社の方にお任せすることになります。
これが、結構ポイントだったりすると、個人的には思います。
どういうことかと言えば、建物の性能・品質に関しては、設計士・施工会社に責任があります。
例えば、そこに関することに第三者が口を出してしまうと、責任の所在が曖昧になってしまうんですね。
(安易に設計者・施工者がそれに従うことはありませんが)
特に、内覧同行者が"オーナー代行・オーナー同様"と捉えられてしまうと、"オーナーの指示"と捉えられ、最悪、是正では無く変更指示と捉えられて、その指示事項(ある種の変更指示になる場合も)の対応による施工会社からオーナーさんへ追加料金の請求なんてことも考えられます。
まあ、これはかなり極端な話で、事前にしっかり意思確認含めた情報共有や相当の手続きが行われるので、このようなことはほぼ起こらないと考えますが。
しかし、全くあり得ない話とも言い切れません。
なので、是正方法については、方法を確認したり懸念を示したりして、場合によっては"提案する"ということとしていました。
あくまで"指示では無いですよ"という理解となるように注意していました。
さて、内覧・検査についてですが、部屋数や大きさ(面積)によるのですが、大体2時間から3時間程度の時間を要していました。
基本的には目視で行い、扉・間仕切・可動棚など動かせるものは簡単に動作確認を行いました。
設備機器類は、換気扇のオンオフ、キッチン・洗面所の水栓の動作・配管からの漏水確認などを行いました。
浴室の浴槽へのお湯はりはほとんどしませんでした。
オーナーさんが事前に希望されていたり、施工会社側が予め段取りしているケースもありましたが、それ以外は行いませんでした。
ほとんどの場合で私がチェックを行なっている間に、別途オーナーさんへの取扱説明が行われていて、その中で浴室関係の説明も行われていました。
その際に簡単な動作確認もされていたので、その点はオーナーさん了解の元、割愛していました。
シンク下・洗面カウンター下の配管からの漏水チェックもしましたね。
二重床下の配管状態も点検口を開けて確認しました。
電気関係は、特に寝室・書斎関係は照明器具が無い状態(数か所仮設対応されているケースが多い)ですので、スイッチの確認は難しいですね。
オーナーさんの気にするところとしては、コンセント(TV・LAN)の位置・数で、それらがオーナーさんの要望通りか、打合せ通りか、といった確認を主に行っていました。
外部では、外壁の打診検査などを行いました。
タイルの浮きはもちろん塗装やモルタル下地の浮きなどが懸念されるので、届く範囲(当該住戸分はほぼカバーでぎすが)を丁寧に検査しました。
建具(サッシ・網戸)の可動確認も当然行いました。
建具類に関しては、スムーズに動くことや不要なガタつきが無いかなどがチェック項目で、“ガラスシールの打ち忘れ”なんていう指摘も稀にあったりするので、そこは注意深くチェックしていました。
それから、玄関前・バルコニーの水勾配を確認します。
部屋内に向かって勾配があるような逆勾配は論外ですが、あまり勾配が取れていない状況だと、床の施工精度によっては思わぬところに水たまりができるようなことになるので、ちょっと注意が必要です。
このようなチェックを行い、チェック項目(指摘事項)は大小様々で、だいたい1件あたり30~60箇所といったところでした。
50箇所を超えることは結構稀で、ほとんどが30~40箇所程度の範囲でした。
それも、ほぼ小さな傷・汚れの類いで、大きな欠陥と言えるものはない状況でした。
ただ、世の中には大きな欠陥・不備を抱えたままオーナーさんに引き渡されてしまうケースもあることから、そのような案件の担当に当たらなかったということはラッキーだったなと思います。
私が内覧同行をさせて頂く中で、もっとも念頭に置いていたのが、"オーナーさんの気持ちの良い新生活のスタート"です。
どういうことかと言うと、例えば、指摘で一番多い傷・汚れの中で、クロス(壁紙)が傷ついていたとします。
施工会社側の対応としては、目立たないように補修を行うのですが、どうしてもよく見れば補修跡がわかる場合があります。
それが、リビングの大きな壁面の真ん中、ちょうど目線くらいの高さなどの場合、どうしても目に入りますし、ちょっとした見る角度の違いで、より補修跡が目立つ場合があるんですね。
そういうものって、気になるとずっとモヤモヤしますよね?
そうなると、単に「補修します」で済ませる訳にはいかないこともあります。
オーナーさんにそれとなく確認して、もし補修跡が気になるようであれば、貼り替えの要求をご提案することもありました。
逆に、普段の生活では気が付かない、気にならない場所でのわずかな傷・汚れを完璧に解消しようとするために大掛かりな補修(やり直し)が必要になり、かえって周囲を含めて新たな傷・汚れなど不具合の二次被害を生みそうなものもあります。
その場合、オーナーさんにその旨をご説明して、軽微な補修に留めては如何か?とご提案したこともあります。
やり直しにまでなってしまうと、一度作ったものを壊すということになり、「どこまで壊してやり直すのか?」というのは難しい判断になってしまうことになります。
大きな許容できない欠陥では無く、実質生活を送る上で問題無い旨をご説明すると、オーナーさん皆さん快く納得して頂けました。
いたずらに施工会社を追い詰めることは、結果としてお互いに良くないことになる場合があるんですね。
品質や耐久性に影響無く、普通に生活していく中で全く気にならないところであれば、それを直すにあたり、どのくらいの影響があるのかは冷静に判断することも大切かな?と個人的には思います。
ただし、くれぐれも施工会社に忖度するものでは無いとご理解頂ければと思います。
一通りチェックを終えると、施工会社・デベロッパー担当者と指摘事項の読み合わせ・是正方針の確認を行います。
オーナーさんも交えて各項目をその場所その場所で実際に確認しながら行いました。
その際に、次回、オーナーさんの是正確認でのポイントについてもお伝えしました。
こうして、内覧会同行の業務は終了します。
後日、オーナーさんからアンケートで内覧同行についてのフィードバックを頂いていたのですが、有難いことに担当させて頂いたほぼ全てのオーナーさんから高評価のコメントを頂きました。
「何を見たらよいかわからなかったので不安でしたが、しっかり丁寧に見て頂いた安心しました。」
「施工会社・デベロッパーの人にもしっかり話をして頂いて、お願いしてよかった。」
「是正確認のポイントも教えて頂いて助かりました。」
「大きな欠陥が無いことがわかって、ホッとしました。安心して新生活が始められます。」
などなど。
単純に、人のお役に立てたということが実感できて、嬉しかったですね。
その後、私の仕事のスタイル・環境も変わり、最後の内覧会同行から約10年経とうとしています。
ただ、あの時の”人の役に立つ”という実感が、『顧客に寄り添う』というコンサルタントとしての今の私のベースがそこにあったのかな、と思ったりしています。
まだ、内覧会同行ってニーズはあるんですかね?
もし、希望される方がいるようなら、またやってみようかな?
昔の仕事をふと思い出し、そんなことを考えたある日の午後でした。
ゼネコン現場監督出身の現役建築プロジェクトマネジャーが語る『ツラい現場を経験した今も建設業界で生きている人間の実例』 Kindle版
諏訪寛 (著) 形式: Kindle版