【建築プロジェクトで『最初に相談する相手は設計者では無いよね』という話】
Anastasia GeppによるPixabayからの画像
設計者の方が見たらちょっと気を悪くするようなタイトルになってしまいましたが、設計者をディスってるとかそういう気持ちはまったく無く、ただ今までの経験上、正直に思っていることなんです。
建築プロジェクトにおいて、クライアントが最初に相談すべき相手は『プロジェクトにコストマネジャー』だと思います。
もろにポジショントークのようになってしまいますが、経験上、本当にそうだな~と思っています。
但し、単純に建築積算士や建築コスト管理士の資格を持っている人が『プロジェクトコストマネジャー』かというとそうではないと思います。
”一級建築士を持っていれば設計者か?”というのと同じですね。
これはどんな業界にも当てはまることなので、大変難しいところですが。
その上で、あえて建築プロジェクトで『最初に相談する相手は設計者では無い』というのは、現在の建築業界の中において設計業務を行い、かつ、コストマネジメントを的確に行うことができる設計者というのは極めて少ないという事実があるからです。
ここは、設計を本業としている方も声高に異論を唱えることは無いのでは無いでしょうか?
当たり前の話ですが、そもそも建築プロジェクトはクライアント側で立ち上がります。
企業が自社ビルを建てたり、工場を建てたり、店舗を造ったり。
国や地方自治体が庁舎や公共施設を建てたり改修したり、個人が家を建てる場合も全てクライアント側で企画が持ち上がってくる訳ですね。
そして、ほとんどの場合、その瞬間に”お金”との関係が出てきます。
「このプロジェクトに掛けられる予算はいくらか?」
「このプロジェクトにはいくらのお金が必要になるのか?」
多くの場合、この段階ではクライアント側でいろいろ事例を調べたり、事業計画や経営計画をよくよく検討して、”掛けられる予算”、あるいは”掛かるであろう概算コスト”を算出したりします。
そして、このプロジェクトで実現したい大凡の内容(与条件)を整理した上で、設計者に相談、または懇意にしている(施工を請け負ってくれる)建設会社に相談するというのが一般的になっていると思います。
しかし、ここには問題があります。
まず、”建設会社に相談する”場合です。
問題があると言いましたが、実は状況次第によっては最適な選択になる場合があります。
それは、”時間が無い(決められている)”場合です。
何より時間が優先される場合は、そのことを実現できる、つまり、工事ができる建設会社に相談・依頼することが最速になります。
この場合であっても、最初から複数の建設会社に声掛けを行い、競争を促すことである一定のコストマネジメントを行うことは可能です。
ただ、設計も無い状態で建設会社に声掛けを行うということは、必然的に設計も併せて依頼する(いわゆる設計施工一括=デザインビルド)ことになり、内容(与条件)の示し方によっては、各社の理解・回答・提案が非常に幅広いものとなり、クライアント側での確認・精査が非常に難しいものとなります。
かといって、一社限定で話を始めてしまうと、設計段階から腰を据えて打合せができるでしょうが、コストはある意味大幅に建設会社に握られてしまうことになります。
「懇意にしている」など一定の信頼感があればまだ状況は違うと思いますが、最初から建設会社に相談するというのは、時間的な面でメリットはある可能性はありますが、コスト面ではかなりリスクの高いことと言わざるを得ません。
では、設計者(建築家・設計事務所)はどうでしょうか?
今現在、多くの人が建築プロジェクトにおいて最初に相談する、あるいは相談先として思い浮かべるのは”設計者”ではないでしょうか?
しかし、残念ですが、これは決してベストな選択とは言えません。
何故なら、”クライアント側で既に一定のコストの制限が掛かっていること”と、”コストマネジメントを的確に行える設計者が極めて少ないこと”という2つのポイントが挙げられます。
まず、”コスト制限”に関してですが、実はこのこと自体に問題があることが非常に多いです。
それは、このコスト制限(コスト上限)とクライアント側で設定された内容(与条件)がそもそも整合していない、予算オーバー状態であることが少なくないということです。
”実現したいこと”、”欲しい機能”など希望を書き出し、整理して内容(与条件)を作る訳ですが、その時点で内容とは別に事業計画・経営計画などから算出されたプロジェクト予算が合っていないことが意外と多いんですね。
しかし、多くの場合、それに気付きません。
それもそのはずで、これはすでに”コストマネジメント”の領域で、知識と経験を有する難易度の高い作業となっているからです。
そして、コスト(予算)と内容(与条件)の整合が取れていないまま、設計者に示されます。
ここで、設計者から内容と予算の不整合について指摘などがあり、改善するような協議や低減があれば良いのですが、そのようなことはほぼありません。
設計者もまた、内容と予算の不適合には気付かないのです。
いや、仮に気付いたとしても「まずは自分のデザインの実現を優先」し、「コストはどこかで帳尻を合わせれば良いだろう」という考えをする場合が実は少なくない。
その裏には「施工者を競争させれば(施工者が頑張れば)予算内で何とか工事請負契約をできるだろう」という考えがあるんですね。
しかし、この考えは危険で、そもそも”競争が起きるほど応札する建設会社がいるのか?”、”それだけ魅力ある案件か?”という疑問を解決しておく必要があります。
昨今の建設業界は、2011年3月の東日本大震災からの復興需要に加え、東京オリンピック・パラリンピックの施設整備等の大型プロジェクトの乱立により人手不足もあり、建設費は高騰しています。
最近になってようやく落ち着きは見せてきたものの、依然として高止まり傾向にあります。
建設会社は必然的に選別受注を行うこととなり、内容と予算が合っていない、すなわち利益幅の少ない、下手をすれば赤字になりかねない危険な案件には手を出してこないということになります。
公共工事の入札不調に見られるように、内容・仕様と予算が合わなければ、建設会社は仕事を請けたくても請けられないということです。
このように、設計完了後にコストが合わないことが発覚しても、その後に設計の見直しや予算の増額の検討・手続きなどが必要になり、プロジェクト全体が遅延することに加え、余計な経費も掛かることとなり、良いことはひとつもありません。
このため、設計中のコストマネジメントが極めて重要ですが、先述した通り、これが的確にできる設計者は極めて少ないのが現状です。
企画が立ち上がった段階から、内容と概算コストの整合性を確認し、設計段階で工事請負契約金額を睨んだコストマネジメントを的確に行うにはどうしたらよいのでしょうか?
結論、『企画段階から”プロジェクトにコストマネジャー”を採用する』ということです。
下記の図が建築プロジェクトの流れです。
今までのお話しを図式化しています。
これでわかる通り、実は『プロジェクトコストマネジャー』は発注者と同様にプロジェクトに一貫して関わり続けることが可能な存在だということです。
残念ながら、設計者・施工者(建設会社)には、それぞれ仕事を請け負うフェーズがあります。
設計者であれば、設計(基本・実施)フェーズ、工事段階では工事監理者として関わることがありますが、工事完了時点で終了です。
施工者(建設会社)は、基本的には工事段階のみです。
クライアント側で施設運営を開始した後、メンテナンスや改修工事が発生した際は再び関わることがあるかも知れませんが、工事完了時点で一度役割を終えます。
しかし、プロジェクトコストマネジャーは、もちろんクライアントとの契約の仕方によりますが、その建物が存在する限り、すべてのフェーズ・すべての時間で関わることが可能です。
もっと言えば、その建物が役割を終え、解体される時でさえも”解体工事のコスト算出”、”建物解体後の土地の有効活用(施設建設含む)”といった新たなプロジェクトにも、クライアントを支援する役割として関わり続けることが可能です。
もうお分かりだと思いますが、建築プロジェクトで『最初に相談する相手は”設計者”では無く”プロジェクトコストマネジャー”』だということです。
これは、役割とスキルの問題で、設計者とプロジェクトコストマネジャーの優劣の話ではありません。
事実、今までは設計者がクライアントの第一の支援者として、その役目を担ってきました。
しかし、昨今、より工事請負金額に関する状況が厳しくなり、また、クライアント内での概算コストに対する精度向上の要求、内部・外部に対するプロジェクトや事業についての説明責任など、コストの捉えられ方が急激に厳しく難しくなっています。
今まで、設計者のサポート役的な存在に見られていた建築積算士・建築コスト管理士の存在がクローズアップされてきたのは必然だと思われます。
特に、”お金”は誰でもどの場面でも共通言語・共通ツールです。
もはや、”建築積算(コスト)”は、”設計(デザイン)”・”施工(技術)とともに、建築生産活動を支える基本的な柱と言えます。
コストのプロである『プロジェクトコストマネジャー』をプロジェクトの初期段階から採用するメリットは言うまでもありません。
建築プロジェクトをお考えの方は、ご検討をお勧めします。
建築プロジェクトで『最初に相談する相手は設計者では無いよね』というお話しでした。
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