【建築プロジェクトにおける概算手法の進化・発展と予備費の考え方】

✔概算手法の進化・発展

改めてですが、建築工事において、実施設計図書に基づく工事費算定、いわゆる積算(精算積算)は、官公庁・民間で統一された「建築数量積算基準」というものが整備されています。

また、積算を担う資格制度も存在することから、一般的に標準化された積算が行われている状況と言えます。
また、設備工事においても、同様の「設備数量積算基準」が整備されている状況です。

一方で、プロジェクトの川上段階、つまり発注者による事業構想や企画・基本計画・基本設計といった設計プロセスの各段階において行われる工事費算定、つまり概算コスト算出(概算積算)については、いまだにこれといった統一された基準は存しておらず、当該プロジェクトに関わる各企業あるいは各機関が、それぞれプロジェクトの特性に合わせて、独自の手法を用いて行われています。

また、それらの独自手法と言っても、いわゆる坪単価や類似案件等が得られた統計的なデータによる推定値が主たるものとなっているのが現状です。
その中にあって、部分的に一定の詳細な項目の概略積み上げや部分別・ゾーン別の概略積み上げを行い、概算算出している場合もあります。
しかし、いずれにしても、全体として十分な体系化がなされていないと言えるでしょう。
つまり、このような状況下で概算として算出される精度は、残念ながらそこまで高くない、といったところです。
そのため、プロジェクト初期に算出し、事業予算(コスト)として見込まれていた価格を施工者選定段階で施工者から提示された価格(プライス)が大きく上回り、トラブルとなるケースは少なくありません。

このような状況の打開のために、精度高い概算算出のためには、まずは可能な限り詳細な必要設計情報の入手がポイントになります。
いくら精度高い概算を行うつもりでも、必要な設計情報が無ければ有用な結果は得られません。
特に、構造計画・外装仕様など、計画の初期段階でおおよそ確定していくものを中心に、コストコントロールに耐えうる項目・数量を一定範囲で積み上げる概算手法の構築・採用がポイントになってきます。

概算コスト算出は、設計情報の量と質、積算期間といった個別的・具体的な条件面からその手法が定まることが多々あります。
また概算の目的に応じて、つまり、設計のコストプランニング・コストコントロールや事業計画が成立するか否かの判断(フィジビリティスタディ)、あるいは施工側の受注対応用見積などのそれぞれの目的に応じ、最適な概算手法を選択することも重要となります。

概算をめぐるこのような現状に対し、現在、設計段階におけるコストマネジメントのツールとしての概算手法について整理・体系化し、標準化に向けて構築が進んでいるところです。

また、今後の設計段階における設計プロセスの改革、概算コスト算出の精度向上の大きなカギは、“BIM(Building Information Modelling)”の更なる開発・普及・拡大が握っていると考えます。

BIMの発展により、設計プロセスおよびコストマネジメントプロセス、さらには概算手法も一層進化する可能性が期待されます。

これらを実現させるためにも、可能な限り早期に設計情報の早期明確化を行う、いわゆる“フロントローディング”の考え方が必要になります。

このように、設計段階におけるコストマネジメントとは、設計プロセスのマネジメントに外なりません。
従って、概算コスト算出の精度を向上させるには、設計プロセスの改革も必要となるのです。

✔建築プロジェクトにおける“予備費(コンテンジェンシー)”の考え方

設計の初期段階においては、設計内容には未確定な部分が多く、与条件も十分整理された者とはなっていない場合が一般的です。

そのような不十分なプロジェクト情報・設計情報をもとに算定される概算コストは、どうしても一定の誤差を含んでいるのが当然であると言わざるを得ません。

しかし、設計が進み、情報の密度が濃くなるにつれ、コストがアップしていく例が多く見られるという事実があります。

このことから、概算コストは、「特に初期段階の概算は高めに算定する」という、いわゆる安全側(甘め)の概算を行うといった傾向も多く見られます。

このようなリスクヘッジ的な(ある意味、自己防衛本能的な)意識に基づいた設計者・コストマネジャーの心情・行動は、現状ではある一定レベルで合理的とも考えられ、理解できるところです。

しかしながら、ここには重大な欠陥が内在していることも事実です。

それは、安全側(甘め)にコストを算定することが、「全体として、何パーセント高く算定されたのか?」という本来根拠が示せるはずのものが明確に数値を答えとして提示出来ない場合につながる可能性が出てきてしまうということになります。

例えば、感覚的に「10%程度アップした」というような答えになるかも知れませんが、それを裏付けするだけの根拠資料を提示することは困難であり、コストマネジャー自身が確信をもって主張できるようにはならないでしょう。

また、安全側の概算は初期段階であればあるほど、設計情報の不足からエスカレートしていく傾向があります。

このような状況を踏まえ、概算の精度・誤差に対応する方法として、予め一定程度の予備費(コンテンジェンシー)を計上することをきちんと確立しておくことが望ましいと考えられます。

予備費は、以下の3つの要素に分類されると考えます。

ひとつは、“事業予備費”です。
これは、プロジェクトの事業そのものにおける予備費のことで、価格の変動や事業環境・マーケット環境の変化等に対応し、事業費に一定の予備費を計上することがよいだろうと考えます。

もうひとつが“設計予備費”です。
設計の各段階における設計情報の不十分さへの対応として、一定の予備費を計上しておくことが望まれます。
「設計の進捗により設計情報が充実していくに従って、概算コストの精度が高まり、予備費の一部は設計情報として概算コストに組み込まれる」ということで、進捗に合わせて予備費を徐々に減少させていくという考え方もありますが、確実なコストマネジメントの点からは、基本計画完了時、基本設計完了時、実施設計完了時等、一定程度まとまったフェーズにおいて見直しを掛けるのがよいかと考えます。

最後は、“工事予備費”です。
これは、文字通り、工事段階における予備費になります。
例えば、地中障害物発生等の予期せぬ工事費増加、発生者起因や法的な要因等の設計変更といった工事中におけるコスト増に対応する予備費になります。
工事請負契約において、概ね一般的な工事費増加リスクは施工者側に課されていると言えますが、それでも現場では予期せぬ状況が起きる可能性は否定できません。
事業予備費と一体化する場合もありますが、項目を区別・整理して工事段階の予備費・予算管理を行うことが賢明と考えられます。

予備費の基本的な考え方というのは、プロジェクト情報・設計情報が不確定で不十分なことへ対応するためのものですが、設計図に記載が無くても一般的に建物として備わっていなければならない多くの項目、すなわち「一般的な建築において必要な項目」については、その対象として考えていません。

つまり、実際の概算において「一般的な建築において必要な項目」については、仮定で項目・数量を計上するか、床面積当り単価あるいは金額に対する比率(パーセント)等で計上する必要があります。
これらは単なる積算項目であり、予備費には含まれないことに注意する必要があります。

このことからも、予備費の計上はたいせつであるものの、やはり基本はしっかりとした可能な限り抜け漏れの無い、精緻な概算コストの算出が求められるところだということです。

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