【建築プロジェクトにおける『コスト』と『プライス』】

Nattanan KanchanapratによるPixabayからの画像

✔ターゲットコスト(目標予算)とターゲットプライス(目標発注価格)

コストマネジメントそして概算の核となるのは『コスト』です。
ここでいうコストは「工事原価に一定の適正な一般管理費等(販売管理費と営業利益)を加算したもの」ということになります。
つまり、総合建設業(ゼネコン)あるいは設備工事会社(サブコン)の営業的な入札金額(見積金額)ではなく、企業経営上も適正な価格であり、通常の建設会社が受注し得るレベルの価格となります。
このような考え方(コストの基準)は、公共工事にも見られます。
ただし、民間工事におけるコストマネジメントに使用される各単価のレベルは、個々の施工者の持つ実勢価格によるものというのが基本的な考えであり、共通基準としての具体的な数字は存在しません。
ここには十分注意が必要です。

前述のように、フロントローディングを意識したプロジェクトマネジメントをしっかり行うことにより、“精度高くコストコントロールができていれば、施工者選定においても大きなトラブルなく、最適な施工者が選定できる”と考えます。

発注者側で算出した『コスト』と施工者側で算出した『プライス』が概ね一致する、つまり、施工者側の限界プライス(受注できるギリギリの価格)を発注者側で捉えるということであり、発注者にとっては最適なプロジェクトの進め方ができるということにつながります。

✔施工者のプライス(工事価格・入札価格・見積価格(提案価格))算出について

積み上げによる発注者の原価をベースとした『コスト』に対し、営業的なアウトプットである工事価格・入札価格・見積価格(提案価格)は、各プロジェクトの持つ特性と施工者側の事情や営業的な動機に影響されます。
それらには個別性(プロジェクトにより大きく単価が異なる)、恣意性(特定の項目の単価が極端に安い・高い)、競争環境の反映(競争入札、見積合わせ、特命による価格差・単価差)が多く見られます。
このため、これはらはコストではなく『プライス』と言えます。

コストマネジメントにおいては、『コスト』と『プライス』に違いはしっかり理解した上で、分けて考える必要があります。

ただしかし、施工者と締結する工事請負契約金額である『プライス』が結果的には『コスト』になる訳ですが、設計段階におけるコストマネジメントでは、営業的かつ特殊時事情が多分に含まれ、技術的な根拠なく変動し得る『プライス』は基準・定規として取り扱うのはふさわしくなく、あくまで技術的に検証できる『コスト』を基準として、常に判断の軸を一定に保つことが重要となります。

とは言え、コストマネジメントの上では『プライス』は非常に重要なものになります。
ある意味、プライスコントロールがコストマネジメントの最も重要な要素、つまり、ターゲットプライス(目標発注価格)をどのように導き出し、コントロールし、目標の金額で発注するかが、プロジェクトにおけるコストマネジメントの最終ゴールであり評価軸になります。

✔“プロジェクトコストマネジャー”は発注者の伴走者

設計段階で如何にコストコントロールを行い、ターゲットコストを達成したとしても、発注価格がそれを上回る、不調により工事請負契約が成立しないという事態に陥った場合、「結局目標に達しなかった」という評価にしかなりません。

従って、「ターゲットコストを設定する」ということは、「ターゲットプライスプライスを見定める」ということに他なりません。
そして、ターゲットプライスを実現するためには、建物概要・仕様からコストを割り出すだけでなく「発注戦略」が必要になります。

つまり、どのような発注方式や契約方式を採用するか、プロジェクトの特性・発注者の要望・社会経済状況・マーケット状況といった様々な要因により、そのプロジェクトに最適な発注方式を様々検討し、採用するということです。

競争環境を醸成し、施工者の自由競争による市場原理によりターゲットプライスを実現する方法もあります。

一方、発注者の経営的あるいは営業的な理由で、特命設計施工として発注する場合もあります。

発注方式によっては、基本設計段階からのDB(デザインビルド)方式など、企画設計や基本計画段階において、発注業務が発生することもあります。
このように、発注戦略はプロジェクトの初期段階から検討すべき重要なテーマとなっています。

そして、このような様々な発注方式に対応し、それぞれに最適な戦略・戦術をもってターゲットコスト(=ターゲットプライス)を実現すること、そして、コストコントロールを的確に遂行することで、プロジェクトを成功に導く。
これが、コストマネジメント・プロジェクトマネジメントの最終ゴールとなります。

繰り返しになりますが、ターゲットプライス実現のためには、まずプロジェクトの特性と発注方式に対応したプライスの推定が行われる必要があります。

つまり、施工者に発注する価格をフィジビリティスタディするといったものであり、競争入札の場合は入札価格帯の推定と予定価格設定の基礎情報といったものになります。

特命発注の場合は、発注者と施工者の関係性やマーケット状況による適正プライスの推定といったものがあります。

ここで重要なことは、このようなプライスの推定において『コスト』が不動の基準(定規)となることです。

つまり、技術的に検証できる不動の『コスト』が無ければ、千変万化の『プライス』を捕まえる術は見当たりません。

これがコストマネジメントの核心であり、概算の重要なポイントです。
そして、これを発注者に伴走し、プロジェクト完了までともに駆け抜けることが“プロジェクトコストマネジャー”に求められるところであり、役目でもあるなあと考えます。

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