【設計施工一括方式(デザインビルド方式)が普及してきています】

✔公共工事における大きな変革がおきています

これまでの公共工事の発注方式が原則として”設計施工分離方式”であったのに対し、ここ最近、”設計施工一括方式”や”ECI方式”など、全国各地の自治体で様々な発注方式が採用されるようになってきていますね。

東日本大震災の復興事業や東京オリンピック・パラリンピックに向けた施設整備ということが、きっかけのひとつと言われています。
震災復興やオリンピック・パラリンピックの会場整備といった特殊なプロジェクトに対して、効率的かつスピーディに対応できる発注方式が求められていました。

かつては、公共工事の発注方式の選択肢があまりにも少なく、「人手が足りない」「時間が足りない」「事業費が予測できない」といった様々な課題を解決しながら事業を進めていくことが、非常に難しい状況にありました。

そのような背景の中で、”設計施工一括方式”や”ECI方式”、さらには”アットリスクCM方式”といった手法が導入され始めました。

また、もうひとつのきっかけとして、”2014年6月の品確法(公共工事の品質確保の促進に関する法律)の改正”が挙げられます。
改正点はいろいろあるのですが、その中で、第18条に規定された「技術提案・交渉方式」など、発注方式の多様化に関する内容が追記されました。

2014年度より国土交通省が”多様な入札契約方式モデル事業”の募集を始め、そういったモデル事業の取り組みによって、様々な地方自治体での前例が生まれていっています。
このことから、全国の自治体が経験のない新しい発注方式に対して取り組みやすい環境が整備されつつあるのです。

最近では、市庁舎や体育館やホールなどの公共施設が老朽化による改修や建替の必要性に迫られているという地方自治体が全国で数多くあります。
ですが、特に地方の小さな自治体では庁内の技術者が不足していることが影響してその対応が遅れ、安全性・利便性なども含めて大きな課題となってきています。

こうした小さな自治体が自分たちだけでは対処できないような大規模かつ特殊なプロジェクトに関して、発注手法の選択肢が増えることへのニーズ・メリットは大きいと言えます。

こうした地方自治体からのニーズ・期待が強いという背景も、多様な入札契約方式の急速な普及を後押ししていると一因と考えられます。

✔設計施工一括方式(デザインビルド方式)が普及してきています

このように多様化する入札契約方式の中でも、最近特に採用されることが増えているのが”設計施工一括方式(デザインビルド方式)”です。

ご存知の通り、デザインビルド方式は日本の民間工事においては、従来から一般的に採用されている発注方式であり、様々なバリエーションはありますが、“施工者が設計段階から参画する”という意味合いにおいては広く普及している確立されたひとつの方式であると言えます。

また、海外では国にもよりますが、公共工事においてもデザインビルド方式が一般的な選択肢のひとつとして定着している、という状況です。

日本の民間工事で一般的であった設計施工一括方式が、海外ではデザインビルド方式として公共工事でも導入されていることと相まって、逆輸入的に日本の公共工事でも導入されつつある状況と言えます。

✔性能発注型のデザインビルド方式のメリット

従来の公共工事で一般的に採用されてきた設計施工分離方式は、設計事務所が作成した設計図書が設計契約における成果品として納められ、その設計図書通りに施工会社によって、施工が進められることになります。

仕様通りの施工が要求される施工会社にとっては、自らの提案や創意工夫の余地がほぼ無い中で、コストやスケジュールの遵守が求められることになります。
ただ、それらを全て理解した上で、入札等の受注競争に参画してきているのであって、そこに特に問題はありません。

逆に、設計図書の不備や工事請負契約以降の変更等は、基本的に契約金額の増減対応になると言えます。
この時にコストインパクトが大きい内容があれば、発注者は予算の増額の検討、あるいは設計者が大きな設計変更などの状況になることも考えられ、プロジェクト全体の進捗に大きな影響を与える可能性があります。

従来型のデザインビルド方式は、発注者からのオーダーは確立したものでは無いことが多く、ややもすると大まかな発注条件となっており、結果、建物の形状やプロセスなど選択の多くは設計施工者任せになるため、品質やコスト、スケジュールのチェック機能が働きにくい場合もありました。

一方、性能発注型のデザインビルド方式においては、まず発注者が”どんなものが欲しいのか?”きめ細かく与件を整理する必要があります。

発注者のニーズを大きく外した提案が出てこない境界線を見極めて、最低限の守るべき枠組みをつくり、あとは設計者や施工者の提案に任せる。

この“きめ細かく与件を整理”と“設計者や施工者の提案”のバランスが、性能発注の成否を分ける重要なポイントと言えます。

また、性能発注型のデザインビルド方式の最大の利点としては、『早い段階でコストや工期の確約(施工者からのコミットメント)が得られやすい』ところだと言えます。

プロジェクトの最大のリスクである『コストとスケジュール』をしっかりハンドリングしたプロジェクト運営が可能になると考えます。

そのためには、施工条件や各種工事の区分等は明確に規定しておく必要があります。

例えば、作業可能時間や作業条件、騒音・振動レベルなどの近隣配慮条件、電話・LAN・セキュリティといった附帯設備関連の工事区分などについても明確化しておかなければなりません。

このような部分があいまいな場合には、後々、発注者・設計施工者間で金額の負担をめぐるトラブルに発展してしまう可能性があります。

プロジェクトの川上段階(基本構想・基本計画)から発注者のニーズをしっかり捉えた上で、造られた建物の稼働・運用状況などの詳細までイメージしながらプロジェクトを進めていくことが必要になってきます。

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