【発注者・設計者・施工者は『共通の目的を果たすためのチーム』(その2)】

✔見積精査の3つのポイント

僕たちがコストマネジメントを行うにあたり、施工者が提示した見積を精査し工事契約に至るまでに3つのポイントを確認しています。

まず確認するのは、“工種別の費用のバランス”です。

わかりやすい例として、建築費と設備費の配分比率が挙げられます。

見積書は、大きく“仮設費・建築費・設備費・諸経費”の4科目に分類されます。

そのうち大部分を占めるのが建築費と設備費です。

この2項目の配分比率は、規模や用途ごとにある程度決まっています。

例えば、オフィスビルならば、建築費と設備費の比率は概ね7:3程度。

ここを基準とすると、倉庫ならば躯体にかかる費用が大きくなることから建築費の比率が大きくなり、逆に病院などではよりハイスペックな設備システムが必要となることから設備費の比率が大きくなります。

このような一般的な配分比率を理解しておくと、そこから大きく逸脱した金額が出てきた時に直ちに疑問を抱くことができます。

2つ目は、“見積書の項目や数量のチェック”です。

ここをどれほど正確に拾い上げられているかによって、施工者が見積の前提条件となる発注要項書等図面を含んだ発注図書をしっかり読み込んで、理解し確認できているかが判断できます。

ただ、プロジェクトマネジャーが数量積算を行うなどの詳細数量を拾い上げるようなことは一般的にやりません。

歩掛りや項目比率における違和感のチェックや単価が大きい箇所もののチェックが主な作業になります。

項目や数量の計上漏れは、実際に図面を作成した設計者の方が特に気付きやすいと言えます。

前述のように、箇所ものや仕上げグレードの高いものなど、設計者視点で確認すべき大事な要素は多々ありますので、設計者の役割が大きいところとなります。

また、施工者の見積に大きな漏れがあった場合には、発注者に確認を取りながら、競争に不公平が生じないように注意しながら、再度見積りを求めるなど臨機応変な対応も必要となる場合があります。

3つ目は“単価”のチェックです。

工事費の大部分を占めるのは、”人(人件費)”と”物(材料費)”。

歩掛りや単位数量の基準は、国土交通省の「公共建築工事標準歩掛り」や「公共建築工事標準単価積算基準」といった公開情報

が基本となります。

単価については、「月刊建設物価」や「季刊建築施工単価」(経済調査会刊)などをベースに一定のものは把握できます。

しかし、こうした刊行物の数字は急激な変動を反映しにくく、どうしても実勢とのタイムラグが生じてしまうのが現実です。

またこれらは、一般的な形態の建物を前提としているため、施工の難易度が高い場合や多くの部材を少しずつ使うような場合、単価は上振れしやすいと言えます。

実感としては、現状では刊行物に記載された単価より2~3割高くなるリスクを織り込んでおいた方が良いかと思われます。

以上の3つのポイントが見積精査で確認するべきポイントになります。

このように、施工者から見積を提示してもらいその精査を行うというのは、公共工事で一般的に採用されているような入札方式による選定では無く、主に技術提案を含めた総合評価方式で施工者を選定するケースになります。

✔コストマネジメントは関係者共通の課題

特に民間のプロジェクトでは、総合評価方式が多く採用されていることから、施工者の見積検証を含めたコストマネジメントが非常に重要な要素となっています。

プロジェクトを円滑に進めるには、発注者・設計者・施工者がお互いの立場を理解し配慮しながら、”対等の交渉”のテーブルに着くことが大切です。

対等の交渉という言葉を使いましたが、本意としては”交渉”では無く、”協働”の意識を持ちたいところです。

発注者・設計者・施工者はお互いの立場・役割を理解した『共通の目的を果たすためのチーム』という共通意識が理想です。

これが実現できれば、自ずとプロジェクトを成功に導くことができるでしょう。

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