【発注者・設計者・施工者は『共通の目的を果たすためのチーム』(その1)】

Ronald CarreñoによるPixabayからの画像

発注者・設計者・施工者は『共通の目的を果たすためのチーム』です。
ここが理解できてるか否かで、そのプロジェクトの明暗は大きく分かれると言っても過言では無いでしょう。

一見、発注者と受注者の関係は上下関係や相反する利害関係にあり、本質的には対立関係のように捉えられたりします。
本来、おかしな話ですが、このような印象を抱いている方は少なくないのでは無いでしょうか?

まず、発注者と施工者の関係でみると、コスト面で”発注者は少しでも安く、施工者は少しでも高く”となりますね。
お互いに相手のことは理解しつつも、変更などでお金の話をしなければならない場面はややピリついたりします。

発注者と設計者の関係でみても、設計者は発注者の要望に応える設計をするのがミッションなのですが「コストが多少掛かっても、(設計している自分が)いいと思うもの・満足できるものを作りたい」というのが隠せない本音でしょう。

このように、必ずしもみんなが同じ方向に心ひとつに向かっているかと言えば、そうではないケースをよく目にします。

ここが、建築プロジェクトのコストマネジメントを難しくしている原因のひとつであると考えます。

✔工事価格は読みにくい

職人不足などによる労務費の高騰に加え、2020年初めからの新型コロナウイルスの影響が、2021年になった今もなお続いており、様々な建設プロジェクトの凍結や見直しが相次いでいます。
このような状況下で施工者にとっても実勢の工事単価を読みにくい状態が続いている中、設計者にとってはより判断が難しい状況と言えるのでは無いでしょうか?

そもそも、工事費見積の勘所を押えて、施工者と対等な折衝・協議を行い、プロジェクトを成功に導くには・・・?
改めて”工事費”というものについて、考えてみたいと思います。

✔施工者の工事費には、様々な思惑が込められている

工事費高騰・変動が大きな課題となっていて、建築技術者に対しコスト管理の重要性が改めて突き付けられているところです。
設計者の中には「月間建設物価」(建設物価調査会刊)などの刊行物を参考に自らはじいた概算と、施工者から出てきた見積との開きに頭を抱えている人も多いことと思います。

しかし、ある意味当たり前ですが、実勢の工事単価がわからないと施工者と対等な折衝ができないし、工事費の調整もできません。

施工者と対等な折衝・協議をするためにまず押えておきたいのは、施工者から提示された見積書の数字は、額面通りに受け取れるものではないということです。

そこには、施工者が“プロジェクトの重要性をどのように認識し、発注者や設計者との関係をどうみているのか?”といった様々な思いが反映されています。

「取りたい仕事か?」
「造りやすい建物か?」

などなど。

もっと言えば、発注者とのそれまでの関係まで加味した数字である場合もあります。

✔3つの工事価格が持つ意味

ご存知のように、工事費には“定価”がありません。

それゆえに実は、発注者と受注者の間の力関係や職人不足や原材料費高騰などの社会情勢に影響を受けて、常に価格は変動します。

ところで、施工者側の工事価格は、”積算部門”・”営業・施工部門”・”決裁者”の3段階でつくられます。
それぞれの立場で、判断基準が違うので、最終段階で数字が大きく変わることもあります。

まず、『積算部門』ですが、設計図書をもとに数量拾いを行い、単価を掛けることにより工事原価を積み上げます。
その後、調達部門や施工部門(工事計画部門)、専門工事会社など意見交換などを行い、“見積価格”を算出します。
この段階での数字は、市場相場を比較的素直に反映したものになります。

それに対して『営業・施工部門(現場担当)』は、取引先との関係や工事の難易度などのプロジェクト特性を盛り込んだ数字を提示します。
ベースは積算部門が算出した見積価格ですが、そこに当該プロジェクトの発注者や設計者とのこれまでの付き合い、発注者の経営の実情や意思決定の迅速さなどの特殊事情も勘案して金額を算出します。

そして、最終的な提示額を決めるのは『決裁者』です。
建設会社なら、支店長クラスの役職者が担当することが多くなります。
ここで、自社の経営戦略や売上目標を考慮した金額がつくられ、あるいは営業・施工部門が作成した見積の承認が行われ、発注者に正式な見積として提出されることになります。

このように、施工者から提示される見積(工事費)は単に諸経費を含めた原価を積み上げたものとは大きく異なります。

”積算は単に数字を積み上げるもの”という認識でいると、予想とのギャップに驚かされることになるかも知れません。

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諏訪寛  (著) 形式: Kindle版